心房細動
心房細動とは
心臓は電気信号によって心臓の筋肉(心筋)を収縮させ、全身の血液を循環させます。 正常な心臓では右心房と上大静脈の境にある洞結節から電気信号が発生して、心臓全体に伝播していきます。
心房細動は心房の洞結節以外の部位から1分間に350-600回の頻度で不規則に発電する不整脈です。心房細動では心房全体が細かくふるえ、心臓の収縮と弛緩が不規則になります。
心房細動の症状
心房細動では心房は1分間に350-600回も電気的に興奮した状態になります。しかし、その興奮の一部しか右心房内の右心室との境にある房室結節を通過できないため、すべてが心室に伝わるわけではありません。
しかしながら、心房細動が新たに起こるときには心拍数が増加することが多く、その症状は動悸、胸の違和感、胸痛、ときにはめまいとして現れます。症状は突然に起こることが多く、強い不安感を伴うことがよくあります。
心房細動の原因
あらゆる心臓病や心房への負担がかかった状態が心房細動の原因となります。具体的には、心臓病では僧帽弁狭窄症または逆流症に代表される弁膜症、狭心症・心筋梗塞、拡張型心筋症または肥大型心筋症等の心筋症、高血圧による心肥大等が原因になります。
心臓病以外では、肺気腫等の慢性呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症等の内分泌疾患が原因になります。また、アルコール、カフェイン、ストレス、喫煙によっても引き起こされることもあります。
心房細動の合併症
心房細動では心房の収縮がなくなり心室が十分な血液で満たされないため、心臓から出る血液量は10-15%ほど減少します。このため、もともと心臓の機能が低下している心不全患者ではさらに心臓のポンプ力が弱くなり、息切れ、呼吸困難、手足のむくみ、等の心不全症状が悪化します。
心臓の構造的な異常のない人でも心房細動の状態が長期間続くと、次第に心臓の機能が低下し、心不全症状が現れるようになります。
また、心房細動では心房が規則的な収縮と拡張をしないため、心房内に血液がよどみ、血栓ができやすくなります。特に左心房の左端の左心耳と呼ばれる部位に血栓はできやすく、この血栓がはがれて、血流に乗って脳の動脈へ到達して内腔を閉塞させると、脳梗塞が起こります。
心房細動を原因とする脳梗塞は急激に血管を閉塞させるためその予兆はほとんどありません。脳梗塞の約30%が心臓由来であるといわれており、その大部分の原因は心房細動です。また、心房細動に脳梗塞を合併する確率は、高血圧があると1.6倍、糖尿病があると1.7倍、僧帽弁狭窄症があると6倍、一度脳梗塞を起こした人では22.5倍上昇します。
心房細動の検査
触診や聴診で心房細動を疑われることはありますが、確実に診断するためには心電図検査が必要です。
突発的に心房細動が起こったり、自然に停止したりと反復することも多く(発作性心房細動)、検出率を高めるために24時間心電図(ホルター心電図)の検査を行います。
慢性的に心房細動となっている人にも心拍数が極端に増加したり、減少したりしていないかを調べるためにも24時間心電図検査をします。
また、心臓超音波検査を行って心臓の機能が低下していないか、心房や心室が拡大していないか、心房に血栓ができていないかを調べます。
これらの検査はすべて当院で行っています。慢性心房細動の方は合併症の把握、治療のために定期的な検査が必要です。
心房細動の治療
心房細動のままで心拍数をコントロールするレートコントロール療法と、心房細動を止めて(除細動)元の調律を維持するリズムコントロール療法があります。
レートコントロール療法は薬で心拍数を正常範囲内に保ち、ワーファリンなどの抗凝固薬を投与して脳梗塞などの合併症を予防する治療法です。レートコントロール療法では心房細動そのものを治療しません。
リズムコントロール療法は電気ショックや抗不整脈薬により心房細動を止めて(除細動)、抗不整脈薬を投与しながら本来の洞調律を維持していく治療法です。リズムコントロール療法は心房細動そのものに対する治療法ですが、除細動後も再発がみられることもあります。
以前はリズムコントロール療法が盛んに行われてきました。しかし最近の臨床試験で、どちらの療法を選択しても、予後に差がないことが分かってきました。このため、レートコントロール療法が選択されることが以前より多くなってきています。
また、心房細動を根治させるためカテーテル焼却治療(アブレーション)が行われるようになっており、年々その成績は向上しています。
心房細動が長く続くと、逆に心拍数が極端に減少し、めまい・立ちくらみなどの症状がみられることがあります。この場合、永久ペースメーカー植え込みを必要とすることがあります。
脳梗塞の予防
ワーファリンによる抗凝固療法が基本になります。65歳以上、弁膜症、狭心症・心筋梗塞、心筋症、心肥大等の危険因子がある場合はワーファリン投与が推奨されています。
64歳以下で危険因子がない場合は、アスピリン等の抗血小板薬でもよいかもしれませんが、ワーファリンは脳梗塞の予防効果が60%もあるのに対し、アスピリンは20%程度しかありません。
ワーファリンの投与量は人により様々であり、採血でINRを測定して調節します。INR 2.0~3.0の範囲内の調整が、効果的で安全であるとされています。また、70歳以上の方には、出血の副作用のリスクが高まるため、INR 1.6~2.6の範囲内になるようにワーファリンの調整をするように勧められています。
ワーファリンの効果はビタミンKにより中和されてしまいます。納豆、クロレラ、青汁、抹茶はビタミンKの含有量が多いため、少量でも摂取しないようにして下さい。ブロッコリー、ほうれん草といった緑黄色野菜もビタミンKを含んでいますが、普通の量なら気にすることはありません。
当院ではINRの測定結果は採血後10-30分程度でわかります。INRは変動する数値ですので、定期的な測定が必要です。
心房細動と食事
狭心症・心筋梗塞、心不全、弁膜症、高血圧、糖尿病が心房細動の原因になっていることが多く、その場合には塩分制限が必要になります。また、心房細動が長く続いたときの合併症である心不全の予防のためにも、塩分制限が必要です。
ワーファリンを服用している方は、ビタミンKを多量に含む納豆、クロレラ、青汁、抹茶は少量でも摂取しないようにして下さい。
心房細動と運動
心房細動の一因である心不全、高血圧、糖尿病に対しては、適度な運動が効果的であることが証明されており、習慣的な運動が推奨されています。しかしながら、運動により心房細動が誘発されることがあり、この場合は運動を控えるべきです。
心房細動とたばこ
喫煙は心房細動を誘発する直接の原因です。また、心房細動の原因である狭心症・心筋梗塞、心不全、高血圧は喫煙により悪化することがよく知られています。このため、禁煙が必要です。当院では禁煙外来を行っており、健康保険で禁煙補助薬(内服薬または貼付薬)が処方できます。たばこを吸っている方は、一度相談してください。
心房細動とアルコール
飲酒により心房細動が誘発されることがあります。この場合は少量の飲酒でも起こるため、禁酒が必要です。飲酒との関連のない方の場合は、適量の範囲であれば差し支えないでしょう。
心房細動のまとめ
心房細動は無症状であることが多く、放置されがちな病気です。しかし、心不全、脳梗塞といった重篤な疾患を合併する可能性が年々高くなります。また、心房細動は高血圧、糖尿病等の生活習慣病が原因となっていることが多く、心房細動はその生活習慣病の一合併症として起こっているのかもしれません。さらなる合併症を予防するためにも、早期発見、早期治療が重要です。