ハートフルクリニック北井内科

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気を付けたい病気

気管支喘息

気管支喘息とは

喘息は空気の通り道である気道に炎症が起こり、空気の流れ(気流)が妨げられる病気です。気道はいろいろな刺激に過敏に反応して、気流の制限が起こり、発作的に咳、喘鳴、呼吸困難といった症状が出現します。その症状は軽いものから死に至る重度のものまであります。

日本では170万人の方が喘息を患っていると推定されています。大気汚染、呼吸器感染症の増加、心理的ストレスが喘息発症の一因となっているため、喘息は今後も増加していくものと予想されています。

気管支喘息と気象の関係

喘息の発作は春・秋の季節の変わり目、気候の不安定な時期に起こりやすいことが以前より知られています。具体的には、梅雨や秋雨の時期、移動性高気圧や台風の接近したとき、寒冷前線の通過するときに、喘息は悪化することが多くみられます。特に、前日より気温が5℃以上低下すると、発作が起こりやすいといわれているため、注意が必要です。

気管支喘息の発症時期

一般に、喘息は「子供の病気」と勘違いされがちです。成人喘息のうち、小児喘息を持ち越したケースは全体の20%に過ぎず、20-40歳での発症が30%、40歳を超えてからの発症が50%を占めます。

小児発症型の喘息は他のアレルギー性疾患を合併しているケースが多く、その大部分は軽症です。

一方、成人発症型の喘息はアレルギーの関与が少ないのですが、重症化しやすく、アスピリン喘息を伴うことがが多いという特徴がありあます。喘息はいつ発症してもおかしくない病気であり、決して「子供の病気」ではありません。

気管支喘息の原因

喘息はアレルギー反応が関与していると考えられてきました。アレルギーの原因となる物質の刺激によりTリンパ球が関与して、最終的に肥満細胞からヒスタミン、ロイコトリエン等が放出されます。

これらの物質は気管支をとりまく平滑筋を収縮させ、血管の透過性を亢進させ、痰の分泌を高めて喘息の症状を引き起こします。この反応は短時間に起こるため即時型反応と呼ばれています。

また、刺激に反応した好酸球は、傷害性蛋白物質(メジャー・ベーシック・プロテイン)を放出し、気管支粘膜の剥離・破壊を引き起こします。さらに好酸球は神経末端がむき出しになった気道に向けて血小板活性化因子などの化学物質を放出し、気管支平滑筋を収縮させたり、粘液を過剰に分泌させたりします。この反応は遅発型アレルギー反応と呼ばれ、繰り返し発作を起こす喘息に関係しています。

小児喘息の場合は9割の患者さんでアレルギー反応を引き起こす特定の物質が関与していますが、成人喘息の大部分はアレルギー反応の関与が証明されていません。

現在では、気管支喘息はアレルギーが原因であるだけでなく、気道の慢性炎症が大きく関わっていることがわかっています。

気道の過敏性と慢性炎症

喘息患者の気管支は、いろいろな刺激物質に過敏に反応し、健康な人なら反応しない弱い刺激によっても容易に収縮します。これは気道過敏性と呼ばれ、この過敏性が高いほど喘息は重症になります。

気道が過敏になる最大の原因は気道の慢性炎症です。慢性的に気道に炎症が続くと、気管支の粘膜を覆っている上皮細胞が傷害されてはがされ、知覚細胞が露出して、過敏性が高まります。慢性炎症が治療により改善すると、気管支の粘膜も修復され過敏性は低下します。

しかし、慢性炎症が長期に続くと、気管支の壁は厚く、内径は狭くなります。この状態はリモデリングと呼ばれます。リモデリングに至ると、過敏性はさらに高まるため、治療による改善も難しくなります。

気管支の慢性炎症こそが成人喘息の本態であり、慢性炎症の急激な悪化が喘息発作といえます。

アスピリン喘息

成人喘息の約1割の患者ではアスピリンのような鎮痛剤の使用により、1時間以内に発作が誘発されることがあり、アスピリン喘息と呼ばれています。アスピリン喘息患者では、アスピリンのみならず、ボルタレン、ロキソニン、インダシンといった非ステロイド抗炎症薬でも発作が誘発され、内服薬だけではなく座薬や湿布でも発作が誘発されることがあります。

鎮痛薬による喘息発作を経験したことがある人は、不用意な使用を避けるべきです。

成人型気管支喘息の重症度

自分の喘息の状態がどの程度であるかを知ることは、自己管理する上で極めて重要です。

喘息の重症度は症状により、以下のように4分類されます。

軽症間欠型 喘鳴、咳、呼吸困難が間欠的で短く、症状が週に1-2回起こる。
夜間症状は月1-2回。
軽症持続型 症状が週2回以上起こり、月2回以上は日常生活や睡眠が妨げられる。
夜間症状は月2回以上。
中等症持続型 症状は慢性的、 週1回以上は日常生活や睡眠が妨げられる。
夜間症状は週1回以上、β2刺激薬の吸入を毎日必要とする。
重症持続型 症状が持続し、しばしば増悪。
日常生活が制限され、夜間症状も頻回。

気管支喘息の治療薬

喘息の治療薬はその役割により大きく2種類に分けられます。ひとつは喘息症状を軽減・消失させ肺機能を正常化し、その状態を維持させる薬であり、長期管理薬(コントローラー)といわれます。これには吸入ステロイド薬(フルタイド等)、長期作用型のβ2刺激薬(セレベント、ホクナリンテープ等)、ロイコトリエン拮抗薬(キプレス等)があります。また、吸入ステロイドと長期作用型のβ2刺激薬の合剤(アドエア、シムビコート)も広く使用されるようになりました。

もうひとつは喘息発作を鎮める薬であり、発作治療薬(レリーバー)と呼ばれ、短時間型のβ2刺激薬(メプチン等)と短期間使用する経口ステロイド(プレドニン等)があります。

ステロイド薬
ステロイドは気管支の慢性炎症を改善させる薬であり、炎症の「火消し役」を担います。ステロイドというと「副作用の強い薬」と思われがちですが、長期内服しない限り、副作用は軽微です。
吸入ステロイド薬(フルタイド)を使用すると、気道の炎症が軽減し、肺機能と気道過敏性の改善がみられます。重症の喘息患者では経口ステロイド薬を長期使用せざるを得ないことがありますが、高用量の吸入ステロイド薬を使うことにより経口ステロイドの量を減らすことができ、副作用を軽減できます。
また、喘息発作時にはステロイド吸入薬では不十分であり、ステロイドを点滴または経口で投与する必要があります。
喘息発作とβ2(ベータ・ツー)刺激薬
β2刺激薬は気管支平滑筋を弛緩させ、喘息症状を緩和することができます。軽症喘息には短時間作用型β2刺激薬(メプチン)を発作時にのみ吸入し、中等度喘息には長期作用型β2刺激薬(セレベント)が使用されます。 しかしながら、上述のごとく喘息発作には気管支の慢性炎症が大きく関わっているおり、β2刺激薬はこの慢性炎症には効果がありません。このため、すべての喘息発作にβ2刺激薬が有効という訳ではありません。実際、β2刺激薬に頼りすぎたがために喘息死に至ったケースもあります。 現在、吸入ステロイドと長期作用型のβ2刺激薬の合剤(アドエア、シムビコート)が広く使用されるようになりました。2剤を別々に吸入するより簡便であり、良好な治療成績が報告されています。
ロイコトリエン拮抗薬
気管支拡張作用があり、アレルギー、アスピリン、運動による喘息発作を抑制します。抗炎症作用も強く、軽症および中等症の喘息患者の60%に有効性があります。効果発現には約2週間を必要とします。

重症度に応じた喘息治療

軽症間欠型 喘息の症状があるときに頓用でメプチンエアーを吸入し、場合によっては吸入ステロイド薬(フルタイド)あるいは抗ロイコトリエン薬(キプレス)を使用
軽症持続型 低用量の吸入ステロイド薬(フルタイド)を常用し、長期作用型β2刺激薬(セレベント)と抗ロイコトリエン薬(キプレス)を併用
中等症持続型 中用量の吸入ステロイド薬(フルタイド)を常用し、長期作用型β2刺激薬(セレベント)と抗ロイコトリエン薬(キプレス)を併用
重症持続型 高用量の吸入ステロイド薬(フルタイド)に長期作用型β2刺激薬(セレベント)を併用し、症状によっては経口ステロイド(プレドニン)を短期使用

いずれの重症度でも短時間作用型β2刺激薬(メプチン)の頓用は、1日3-4回までとします。

また、吸入ステロイドと長期作用型のβ2刺激薬を併用するケースでは、それらの合剤(アドエア、シムビコート)を使用すると簡便になります。

喘息死について

吸入ステロイド療法の導入により、喘息の長期管理の成績が改善しました。しかしながら、個々の患者の発作回数は減っているにも関わらず、喘息死はこの20年間減っていません。年間7,000人もの患者が亡くなっており、中でも20歳代の男性の急死が増加しています。

急死の原因の中にはステロイド吸入薬の自己判断での中止、β2刺激吸入薬の過剰使用によるものも含まれています。

喘息発作時にはメプチンエアー吸入を試みますが、改善に乏しい場合はステロイド点滴等の治療が必要です。発作の症状を軽視したばかりに喘息死に至るケースがいまだに減少せず、年間1,000人以上が喘息のため急死しています。メプチンエアーを吸入しても、改善に乏しい場合は速やかに受診して下さい。

気管支喘息と食事

喘息に特別な食事療法はありませんが、アレルギーを原因としている喘息患者はその原因となる食品、添加物を避けなければいけません。喘息発作中はエネルギーの消費が大きいため、いつもより高カロリー、高蛋白、高ビタミンの食事による補給が必要です。また、喘息発作により水分も喪失しているため、十分な水分補給が必要です。

気管支喘息と運動

軽症患者の35%、中等症患者の78%では、運動後に喘息発作がみられることがあります。これは「運動誘発喘息」と呼ばれており、特に風邪をひいた後や、湿度の低い寒い冬に多くみられます。

適度な運動を行うことは一般の人のみならず喘息患者においても健康の維持に大切です。軽めの負荷でゆっくりとした運動を、休憩をとりながらすると喘息発作は起こりにくいことが知られています。

運動誘発喘息は気道の水分が喪失することが一因となりますので、水の中での水泳は特に発作が起こりにくい運動です。

中等度以上の喘息の方には、運動の5-10分前にβ2刺激薬を吸入すると、運動誘発喘息は起こりにくくなります。

気管支喘息とたばこ

たばこの煙にはニコチン、タール、一酸化炭素など200種類以上の有害物質が含まれており、その悪影響はよく知られています。むろん、喘息患者においても喫煙は有害です。

まず、喫煙によって気道の炎症が悪化し、喘息発作が起こりやすくなります。また、喫煙により吸入ステロイド薬の効きが悪くなるため、ますます喘息発作の出現が容易になります。

さらに、喫煙している親を持つ子供は喘息になる確率が高くなるといった報告もあります。自分自身の健康のためでなく、家族や周囲の人への影響も考慮して、禁煙することが必要です。

当院では禁煙外来を開設しており、健康保険で禁煙補助薬(内服薬または貼付薬)を処方しています。たばこを吸っている方は、ぜひ禁煙外来を受診してください。

気管支喘息とアルコール

飲酒後に喘息発作が起こることがよくあり、「アルコール誘発喘息」と呼ばれています。これはアルコールが体内で分解されてできるアセトアルデヒドという物質によって、気管支粘膜の毛細血管が拡張し、さらに肥満細胞からヒスタミンが放出されて起こる喘息発作です。日本人の半数近くはこのアセトアルデヒドを分解する酵素を持っていないため、アルコール誘発喘息がよくみられます。このため、喘息患者は基本的に禁酒が必要です。

気管支喘息のまとめ

気管支喘息は気道の慢性炎症を主体とした病気であり、現在のところ完治する病気ではありません。ステロイド吸入薬の普及により喘息発作の頻度は減少しているものの、依然として喘息死は減少していないのが現状です。

比較的調子のいいときでも、ステロイド吸入薬を中止せず、予防に努めることが大切です。適切な自己管理を行って病状をコントロールし、発作のない状態を保ち、健康な人と変わらない日常生活を送れるように治療に努めましょう。

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