
肥満とは|
肥満の原因|
肥満のタイプ|
メタボリック症候群とは
脂肪細胞の働き|
内臓脂肪と皮下脂肪の違い|
代謝と筋肉|
筋肉の種類
減量の目的|
有酸素運動と無酸素運動|
運動とエネルギー消費
運動とエネルギー消費|
減量とリバウンド|
減量の目標
減量のための食事の工夫|
減量のための食事時間帯の工夫
肥満とは
「肥満」とは脂肪が体に過剰に蓄積した状態をいい、
一般には「太っている」ことをいいます。
太っているかどうかは体重だけでは判断できず、
体脂肪蓄積率や腹囲を測定して判断します。
体脂肪蓄積率は一般に
BMI(Body Mass Index)という体格指数がよく用いられ、
体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求めます。
日本人ではBMIが22の人が病気になる可能性が最も少なく、
BMIが18.5以上25.0未満を標準とし、
BMIが25.0以上を肥満としています。
20歳以上の日本人男性の28%、
女性の21%がBMI 25以上であり、
肥満に該当しています。
肥満の人は肥満でない人と比べて、
高血圧、糖尿病、心臓病(虚血性心疾患)などの発症率が
2倍高くなることが知られています。
肥満の原因
消費するエネルギーよりも
摂取するエネルギーが多すぎることが、
肥満の原因です。
習慣的な過食と運動不足により、
脂肪が対内に蓄積されて肥満となります。
適切なエネルギー摂取量は
人により異なり、
体格、年齢、活動量によって決まります。
肥満の予防には
自分に合った適切なエネルギー摂取量を知ることが大切です。
肥満のタイプ
肥満には、「皮下脂肪型肥満」と「内臓脂肪型肥満」の2種類があります。
「皮下脂肪型肥満」とは、
主にヒップや太ももなどの下半身に脂肪がついた肥満であり、
その体型より「洋なし型肥満」とも呼ばれています。
一方、「内臓脂肪型肥満」は
主に腹部に脂肪が蓄積した上半身の肥満であり、
「りんご型肥満」とも呼ばれています。
上記の2つの肥満を見分けるのに、
腹囲(ウエスト)が簡単な目安になります。
肥満を評価する場合の腹囲は、
おへその高さで測定します。
日本では、
男性で腹囲85cm以上、
女性で90cm以上の場合、
「内臓脂肪型肥満」が疑われます。
正確には、おへその周囲をCTで撮影して、
内臓脂肪が100cm2以上あった場合を
内臓脂肪型肥満と判定しますが、
すべての人にCT検査をすることは
現実的ではありません。
男性では腹囲85cm、女性では90cmの人が、
CT検査で内臓脂肪100cm2におおよそ相当するため、
簡単な指標として腹囲が用いられます。
メタボリック症候群とは
肥満が高脂血症、高血圧、糖尿病などの
生活習慣病の原因になることは
よく知られています。
最近、内臓脂肪が直接的に
高中性脂肪血症、高血圧、高血糖、動脈硬化に
関与していることがわかってきました。
このため、内臓脂肪型肥満の人が、
中性脂肪値、血圧、血糖値が少し高いだけでも、
これらが重なると脳梗塞や心筋梗塞等の
重篤な病気になりやすくなることがわかっています。
メタボリック症候群(内臓脂肪症候群)とは
内臓脂肪型肥満に加えて、
中性脂肪値、血圧、血糖値が高めである状態を総称する、
新しい病名(症候群名)です。
<メタボリック症候群の診断基準>
男性で腹囲85cm以上、
女性で腹囲90cm以上の人が
下記(1)〜(3)の2項目以上に該当する場合は
メタボリック症候群、
1項目のみ該当する場合は
メタボリック症候群予備群
と診断されます。
(1) 中性脂肪値 150mg/dl以上、
またはHDLコレステロール値 40mg/dl未満
(2) 収縮期血圧(上の血圧) 130mmHg以上、
または拡張期血圧(下の血圧) 85mmHg以上
(3) 空腹時血糖値 110mg/dl以上
通常の検診等では、
収縮期血圧が140mmHg以上で高血圧、
空腹時血糖が126mg/dl以上で糖尿病
と診断されていますが、
メタボリック症候群では
それよりも厳しい基準となっています。
ひとつひとつの数値の異常は
それほど大きくなくても、
それらが重なると、
脳梗塞や心筋梗塞の危険性が
急激に大きくなるからです。
例えば、メタボリック症候群の危険因子の
4つすべてに該当する人は、
ひとつも該当しない人と比較して、
狭心症・心筋梗塞になる危険性は
30倍も高いことがわかっています。
日本には、メタボリック症候群の人が940万人、
その予備軍の人が1,020万人いると推定されています。
脂肪細胞の働き
体内の脂肪には中性脂肪、コレステロール、
脂肪酸、リン脂質の4種類があります。
皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積される脂肪の
ほとんどは中性脂肪であり、
この中性脂肪を貯めこむのが脂肪細胞です。
最近、脂肪細胞は単なる中性脂肪の貯蔵庫ではなく、
体内の代謝を調整する生理活性物質(アディポサイトカイン)を
分泌することがわかってきました。
脂肪細胞から分泌される生理活性物質は
100種類以上あります。
その中の、PAI-1は血栓をできやすくして
脳梗塞や心筋梗塞の原因となり、
TNF-αはインスリンの効き目を悪くして
血糖値を上昇させ、
アンジオテンシノーゲンは血管を収縮させ
血圧を上昇させる作用があります。
このように
脂肪細胞から分泌される生理活性物質のほとんどが
動脈硬化を悪化させる悪玉の物質です。
唯一、アディポネクチンという生理活性物質は、
血管の修復を行い、
動脈硬化を予防する善玉として働きます。
しかしながら、
体重増加に伴い内臓脂肪が増加すると、
脂肪細胞からの善玉のアディポネクチンの分泌は減少し、
悪玉のPAI-1、TNF-α、アンジオテンシノーゲンの分泌が増加します。
このように、脂肪細胞と動脈硬化は
密接な関係があります。
内臓脂肪と皮下脂肪の違い
内臓脂肪は内臓のまわり、
特に腸間膜という腸を取り囲む薄い膜の間に蓄積されます。
腸間膜には小腸・大腸からの血管が集まっており、
腸間膜付近の脂肪細胞から分泌された生理活性物質は、
容易に全身に巡っていくことになります。
一方、皮下脂肪がたまる皮膚の下には、
毛細血管がわずかにあるだけです。
このため、皮下脂肪より内臓脂肪の方が、
体の代謝とエネルギー消費に深く関係しています。
また、内臓脂肪は蓄積しやすいのですが、
運動をしてエネルギーを消費すると減りやすい性質があります。
これは内臓脂肪が蓄積している腸間膜の豊富な血流により、
中性脂肪の分解が起こりやすいからです。
代謝と筋肉
生きていくために、糖、たんぱく質、脂質を分解し、エネルギーを作り出し、消費することを代謝といいます。
睡眠中でも、体温を維持したり、内臓を働かせたりするために
エネルギーが消費されており、これを基礎代謝といいます。
基礎代謝はその人の筋肉量と大きな関係があり、
筋肉が多い人ほど基礎代謝は大きくなります。
血中の脂肪と糖分の大部分を分解する筋肉は、
体内で最もエネルギーを消費する組織です。
基礎代謝は年齢とともに低下しますが、
筋肉の量が減少することが関係しています。
「以前と食事量も運動量も変わらないのに太ってしまう」
と嘆かれる人もいますが、
これは基礎代謝が低下したためです。
逆に、運動をして筋肉量を増やすと、
年齢に関わらず基礎代謝を高めることができます。
筋肉の種類
筋肉には「赤筋」と「白筋」の2種類があります。
赤筋は脂肪とブドウ糖を分解する能力に優れ、
酸素さえあれば
エネルギーを生産し続けることができます。
このため、赤筋が多い人は基礎代謝が高く、
太りにくい体質であるといえます。
一方、白筋は脂肪を分解する力が弱いため、
瞬発力は強いものの、持久力に欠けます。
このため、白筋が多い人は基礎代謝が低く、
太りやすい体質といえます。
赤筋と白筋の割合は
遺伝的に人によって決まっていますが、
運動により赤筋の働きを強め、
白筋の一部を赤筋に近づけることができます。
減量の目的
肥満の解消、メタボリック症候群からの離脱のためには、
当然ながら減量が必要です。
あくまでも、体重という数字を落とすことが目標ではなく、
健康増進が目的です。
誰もが楽に早くやせたいと思うものです。
しかし、減量を安全かつ効率的に行うためには
正しい食事療法と運動療法を
地道に続けることが必要です。
よくテレビや雑誌などで
「手っ取り早くやせられる」と、
サプリメントやダイエット器具が紹介されています。
しかし、
そのほとんどが短期的なブームで終わっていることから、
必ずどこかに問題があると思った方がいいでしょう。
重要なことは、基礎代謝を高める筋肉(特に赤筋)を増やしながら、
動脈硬化を悪化させる脂肪組織(特に内臓脂肪)を減らすことです。
有酸素運動と無酸素運動
楽に呼吸をしながら行える運動を有酸素運動といい、
ウォーキング、ジョギング、軽い水泳、
軽い負荷の筋力トレーニング等がこれに該当します。
呼吸を止めた状態で行う運動、
または呼吸を止めないとできない運動を
無酸素運動といい、
短距離の全力疾走、競泳、
重い負荷の筋力トレーニングがこれに該当します。
主に、有酸素運動は赤筋を鍛え、
無酸素運動は白筋を鍛えるため、
減量には有酸素運動が適しています。
筋力トレーニングなら、
30−50回連続でるすと限界になるような負荷が最適で、
効率よく赤筋を鍛えることができます。
5−10回で限界を感じる様な重い負荷だと、
白筋が鍛えられてしまいます。
運動とエネルギー消費
有酸素運動を行うと、
最初に血中の糖分(ブドウ糖)がエネルギー源になり、
次に筋肉のたんぱく質が分解されてエネルギー源になります。
有酸素運動を15分間続けたあたりで、
ようやく脂肪が燃焼され始めて、
脂肪がエネルギー源となるのです。
このため、脂肪を燃焼させるためには、
少なくとも15分間の有酸素運動が必要であり、
30分以上続けることが理想的です。
一方、無酸素運動では運動時間も短くなるため、
脂肪の燃焼はごくわずかです。
運動とエネルギー消費
脂肪を1g燃焼させると9kcalの熱が発生します。
体内の脂肪組織には水分も含まれているため、
運動で1kgの脂肪組織を燃焼させるためには、
7,000kcalを消費する必要があります。
例えば、
体重60kgの女性が軽めのジョギング(120m/分)を1時間すると、
消費されるエネルギーは350kcalです。
つまり、
軽めのジョギングで脂肪組織1kgを燃焼させるには
20時間も必要であり、その走行距離は167kmにも及びます。
運動で消費されるエネルギーは
意外と少なく思えることでしょう。
しかし、
有酸素運動により赤筋が鍛えられると基礎代謝が高まるため、
運動していないときにも消費されるエネルギーが多くなるので、
体重を減らしやすくなります。
減量とリバウンド
体重を気にしたことがある方なら、
一度は減量に取り組んだことがあるのではないでしょうか。
たいていの方は食事量を減らし減量を行います。
短期間で数kg体重を落とすことができますが、
減量を意識しなくなった途端に
体重が戻ってしまうことがよくあります。
いわゆるリバウンドです。
リバウンド後に減量に再挑戦しても、
今度は体重が落ちにくく、
落ちても体は引き締まらずぶよぶよしてしまった。
そんな経験はありませんか。
これは、よくある減量の失敗例です。
まず、食事を減らすだけの減量では、
人の体は基礎代謝を低下させて消費カロリーを少なくしようとします。
また脂肪ではなく筋肉を分解してエネルギーを産生し、
不足したエルギーを補います。
これは、人類が飢餓と向かい合ってきた歴史があるため、
エネルギー効率の高い脂肪を温存しておこうとするためで、
ある程度筋肉が分解された後に脂肪はエネルギー源となるのです。
筋肉が減るとさらに基礎代謝は低下します。
この状態で食事量を通常に戻すと、
基礎代謝が低くなった体にはエネルギー過多状態となります。
そして、余ったエネルギーはすべて脂肪になって蓄えられます。
このように、減量後にリバウンドすると、
以前よりも筋肉量が減って脂肪が増えてしまいます。
ここで、再び減量に取り組んでも、
筋肉量が少なくなった体は筋肉を維持しようとするため、
筋肉の分解が減り、体重が落ちにくくなります。
このように減量とリバウンドを繰り返すと、
だんだん体重は落ちにくくなり、
筋肉の少ないぶよぶよの体となってしまいます。
この失敗を防ぐために、
食事を減らすだけでなく、筋肉を鍛える運動が必要なのです。
減量の目標
早くやせたいと願うあまり、
食事摂取を極端に低いカロリーとする人が見受けられますが、
前述のごとく筋肉が主に減少してしまい、
脂肪の減少は望めません。
また、筋肉のみならず骨の量も減るので、
骨そしょう症になる危険性もあります。
脂肪組織を1kg減らすためには、
エネルギーの収支を約7,000kcalマイナスにする必要があります。
健康的に脂肪組織を減らすには
1日に500kcalのマイナスが限界であり、
これは1ヵ月に2kgの減量に相当します。
1ヵ月に1-2kgの減量を目標にしましょう。
また、体重が上手く減った後は、
リバウンドを防ぐために以前より食べる量を少なくする必要があります。
減量のための食事の工夫
簡単な工夫として
「よく噛んでゆっくり食べる」
という方法があります。
食べ始めてから、
脳の満腹中枢が満腹感を感じるまでに、
15-20分かかります。
このため、「早食い」だと、
満腹を感じる前についつい食べ過ぎてしまうことになるからです。
また、おいしく、楽しく食べると、エネルギーの消費が多くなります。
おいしいと感じる気持ちが交感神経を活性化させるためです。
逆に、1人で簡単に食事をすませてしまう人は太りやすいといえます。
食事は家族や友人と楽しくとるようにしましょう。
減量のための食事時間帯の工夫
最近では、
夜型の生活スタイルの人が増えており、
朝食を食べない1日2食の人が増加しています。
朝食を食べない人は、
昼食または夕食を食べすぎる傾向にあり、
肥満の一因となっています。
そもそも人の体は、
昼間は活動するために交感神経が活発に働き、
夜は体を休めるために副交感神経が優位に働きます。
このため、
昼間はエネルギーを多く必要とし、
夜はさほどエネルギーを必要としていないのです。
しかしながら、
3食のうち夕食の摂取カロリーが最も多いのが一般的です。
飢餓の心配がほとんどなくなった現代では、
夕食のカロリーの多さが肥満の原因となっています。
これは、
就寝まで消費できなかったエネルギーは
すべて脂肪として蓄えられてしまうからです。
どうせ食事量を減らすのなら、
夕食のカロリーを減らすべきです。
その代わり、
朝食のカロリーを増やしても支障ありません。
また、夕食から就寝までの時間が長いほど
エネルギーは消費され、
蓄えられる脂肪も減るので、
夕食の時間を早くすることも効果的です。
特に、残業後に帰宅して、
遅い時間に夕食を食べてからすぐ寝るような場合には、
極端に食事量を減らすようにしましょう。
夜間は脂肪の合成だけでなく、
筋肉の合成も行われるため、
夕食には肉、魚、大豆等のたんぱく質を多く摂るようにして、
脂肪摂取を減らしましょう。
極端にいえば、
油ものの好きな人は、
揚げ物などは朝食べた方がいいということです。
◆◇ メタボリック症候群・肥満のまとめ ◇◆
肥満解消のために、
食事制限をしたり、運動をしたりすることは、
そのこと自体がストレスになり得ます。
せっかく頑張っていても、
そのストレスから過食に走ったり、
いやになって途中で減量をやめてしまったりする人も
少なくありません。
明るく楽しい気分で、減量に努めることが大切です。
ある程度体重が減ると、体調がよくなることが多いです。
体重が減ったことと、体調が良くなったことに喜びを感じて下さい。
家族や仲間とその喜びを分かち合えれば、
なお上手くいくでしょう。
以下に当院の推奨する減量法を箇条書きにします。
- 食事と運動を組み合わせて、月に1-2kgの減量を目標としましょう。
- 週に3回、1回30分以上の有酸素運動をしましょう。
- 筋力トレーニングは30-50回程度の反復で限界となるような軽い負荷で行い、赤筋を鍛えて、基礎代謝を高めましょう。
- 食事はゆっくりとよく噛んで摂るようにしましょう。
- 食事制限は夕食を中心にカロリーを減らし、就寝時には食事から摂ったエネルギーが残っていないようにしましょう。
- 夕食から就寝までの時間をできるだけ長くなるように工夫しましょう。
- 明るく楽しい気持ちで減量に努め、減量が上手くいったら家族や仲間と喜びを感じましょう。
